全部埋めよう、君を愛した全てを。 「愛しとるで、慊人」 [ burial -07 ]
小さな部屋のベットの上には、情事を終えたばかりの男女が気だるそうに天井を見つめていた。窓の外から溢れるネオンの光りは二人を不気味に照らしている。男は一服しようと近くにあった煙草に手を伸ばしたが、生憎中は空だった。男は舌打ちしながら煙草ケースを握り潰し、そして、ぐちゃぐちゃになった煙草ケースを空へと投げた。 「ゴミ……」 「は?」 「ちゃんと捨てて」 女は首を動かさず目線だけで男を見つめた。男は欝陶しそうに眉間に皺を寄せ怠そうに起き上がった。そのままふらふらした足どりでぐちゃぐちゃになった煙草ケースを拾いあげ、ゴミ箱の中へ入れた。 「ねえ、鶚」 「あー?」 「その……」 口を開いたはいいが、女は言いにくそうに口籠るばかりで次の言葉をなかなか発しようとしない。そのことに苛々した男−鶚−は催促するように口調を強めた。 「なんや?」 「あの……さ、いいのかなーって?」 「は?」 「ここに居て」 沈黙が襲う。鶚は溜息をつきながらベットに倒れ込む。女は煩わしいスプリングの音を迷惑そうに聞いた。 「だから、いいの?アキトさん」 「さあね」 「さあね、って……」 女は呆れながら頭を押さえて上半身だけを捻らせた。 「ねえ、アキトさん1人にしていいの?」 「おまえには関係あらへんやろ」 「そりゃ、そーだけどさあ」 「それに僕がアイツの面倒見やなあかへん理由でもあるんか?」 予期しない返事に女は戸惑いながらも言葉を探す。 「え、でもさ……、お姉ちゃん、でしょ?」 「血ぃ繋がってへんな」 「でも、義理でも姉は姉でしょ?」 「そんなん関係あらへん。慊人と僕を繋ぐ物はもうあらへんねん」 せや、もうないんや。繋ぎとめるもんが。 「せやったら、もう赤の他人同然やろ?」 「そんな言い方ないんじゃない」 煩いなあ。 「あーあー。やっぱり、呼ぶんじゃなかった」 「おまえも」 「……え?」 「おまえも慊人が可哀相やと思ってるんか?」 「それは……」 「偽善者」 女は言い返すことができずまた口を閉ざす。鶚は女を見て溜息をつきながら立ち上がる。そして、ベットの周りに落ちている衣類を拾い上げ、身につけ始めた。 「鶚!別にあたしは」 「もう、ええ」 「だけど」 「しゃべんな」 鶚は女を静かに睨んだ。女は目線を逸らし小さな声で謝る。それを顎は聞き流しながら小さな部屋を出た。外はまだ薄暗い。 なんで、死んだんや。なんで、慊人残してったんや。 くそったれ。 |