「寒いね」 唐突に羽鳥は口を開けた。戸惑うわたしはまるでしゃべれない人形のようにくるくると目を廻す。 (ああ、眩暈がする) 一生懸命落ち着くように息を整える。その光景が馬鹿馬鹿すぎて自分がなんて滑稽な生き物なんだと感じてしまう。 「絢、用ってなに?」 いきなり本題を持ち掛ける彼にわたしは何も言えない。 (言わなきゃ、言わなきゃ) 何度も頭の中で練習したんだ、大丈夫、ただひとこと言えばいい。 「もう、羽鳥とは付き合いたくない」 言えた。それはあまりもハッキリ残酷なまでに。 「そっか」 「え?」 羽鳥の顔が見れない。顔を上げてはいけないような気がした。 (どうしよう、泣きそうだ…) ポンッ 「え?」 不意の出来事に顔をあげる。そこには大好きな彼の掌。 暖かい大きな、優しい掌。 「はと、り?」 「ごめん、こんなこと言わせて。ほんとは知ってた」 (今、なんて言った?) 「最初から知ってた。だけど、手放したくなかった」 ああ、この人は。 「ごめん、絢」 ダメだダメだダメだ。泣いてしまう。泣いてはダメだ。泣いては。 「ごめんなさい」 あの日は本当に寒くて、引き攣った頬が冬の冷たさを感じた。 (でも、頬を流れる涙は温かくて、) 一月の暗殺 (舞い散る桜の下、冷えゆく掌に愛を込めてさよならと鎮かに餞を落とす) |